障害者の歯科治療は、ノーマライゼーションの理念に基づき、健常者と同じように平等に医療を受けられる環境を整えることが大切です
以下の内容は一般社団法人佐世保市歯科医師会の月報に寄稿した内容です。佐世保市においても障害者の診療に対して苦慮している歯科医院もあります。
しかし、スペシャルニーズを理解し、正しく初期対応することにより、良好な歯科治療の結果に結びつきます。
歯科医師会会員の先生方に知っていただきたくて寄稿しました。歯科の先生方や患者さん、患者ご家族のみなさまにとって一助となれば幸いです。
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障害者の歯科治療における初期対応は、ノーマライゼーションの理念に基づき、障害者が健常者と同じように平等に医療を受けられる環境を整えることが大切です。
障害者が直面するバリアには、
物理的バリア(診療室へのアクセスの難しさなど)
社会的バリア(偏見や理解不足)
意識のバリア(医療者側の知識不足)
文化・情報のバリア(情報提供の不足)
があります。
佐世保市や県北地域においても、障害者への初期対応において準備が不十分なため、歯科治療が困難になることもあるようです。知的能力障害や自閉スペクトラム症などの発達障害に対して、その特性を理解して、治療前に安心感を与えることが大切で、以下のような対処法が効果的です。
聴覚過敏用のイヤーマフ
レストレイナー
・事前に環境を整える: 音や光の刺激を最小限に抑えるために、騒音を減らしたり、柔らかい光を使用することが有効です。また、感覚過敏に対応できるように目隠しやイヤーマフなども用意します。
・治療内容を丁寧に説明する: 治療が始まる前に、どのような手順が行われるかをシンプルな言葉で説明し、不安を軽減させます。また、手順を視覚的に説明します(長崎県口腔保健センター・視覚支援ツール等のダウンロード使用)。
・ゆっくりと進める: 一度にすべてを行うのではなく、患者のペースに合わせて治療を進め、必要に応じて途中で休憩を取りながら行います。診療台に乗ることから始めたり、デンタルミラーを口の中に入れることなど、スモールステップで患者と一つずつ確認します。
・安心できる人の同行: 家族や介助者・スタッフなど、患者が信頼している人物がそばにいることで、安心感を得ることができます。
障害者の中で自閉スペクトラム症や感覚過敏の方には、以下の点について配慮した方が良いでしょう
長崎市にある長崎県口腔保健センター入口
1. 環境の変化や予測不能な出来事
自閉スペクトラム症患者は、予測可能な環境やスケジュールを好む傾向があり、急な予定変更や不慣れな場所、突然の出来事に対して非常に敏感です。歯科の診療室は、通常と異なる音、匂い、光があり、これがパニックを引き起こす要因となります。
たとえば、治療のために突然明るいライトが向けられたり、予期しない歯科器具の使用音が聞こえた場合、驚きや不安からパニックに陥ることがあります。
2. 感覚過敏
感覚過敏がある人は、触覚、聴覚、視覚など特定の刺激に対して過剰に反応します。歯科治療では、タービンの音、歯科用の照明、器具が口の中に入る感覚、さらには薬品の匂いなどが感覚過敏を引き起こすことがあります。
例えば、タービンなどの切削器具の高音が耳に痛いほど響いたり、歯科医の手が顔や口周辺に触れる感覚が耐えがたい不快感を伴うことがあります。
3. コミュニケーションの難しさ
知的能力障害や言語障害を持つ患者が、自分の感情や不安をうまく表現できない場合、治療中にストレスや恐怖が高まり、結果的にパニックになることがあります。
例えば、治療が始まる前に何が行われるのか説明が十分でなかったり、痛みや不快感を感じた際にそれを伝えられないと、不安が急激に高まりパニックを引き起こすことがあります。
4. 身体の固定
一部の障害者は、体動が激しいため、治療中に体を固定することが必要になる場合があります。
レストレイナーやベルトを使って身体を固定することにより、患者と歯科医師の双方にとって安全に治療を行うことができます。
徒手による方法は患者の呼吸を抑制する場合があります。身体の固定はSpO2を測定しながら治療を進めた方が良いでしょう。
上記の対応を通じて、障害者のリスクを軽減し、より安全に歯科治療を進めるようにすることができます。
長崎健康保健センター巡回歯科診療の現況と歯科医院対応、吉岡町歯科の紹介
現在、長崎県口腔保健センターは長崎県下の障害者施設への巡回診療を行なっています。しかし現状は一つの施設につき2年に1度程度の巡回で、障害者施設の居住者全員に歯科治療が行き渡るものではありません。また、口腔内環境の改善のためには継続したメインテナンスを行わなければいけません。
吉岡町歯科では長崎県口腔保健センターが受診勧奨を行い、来院された障害者の患者に対して、歯科治療とメインテナンスを行っています。
総合医療センターにおける全身麻酔下における障害者歯科診療は確実ですが、患者による拒否があると前日入院が困難となり、総合医療センターの歯科治療が中止された事例がありました。
しかしながら、施設より紹介があり、当院において対応したところ、レストレイナーは使用したものの、静かな環境であれば、問題なく歯科治療を行ったケースもありました。
患者は、病院で信頼するスタッフと離れて不安になり、聴覚過敏のため騒音に敏感であったり、また環境ノイズもあり、拒否があったように推察されました。まずは通常の歯科医院においても環境を整えて対応する大切さを確認させられました。
長崎県下、特に県北は長崎大学や長崎県口腔保健センターのある県南に比べて、まだ歯科治療が行き届かない障害児者は多くいる状況です。
少しでも多くの障害者が健常者と同じように歯科治療を受けられるよう皆様にはご理解をいただければ幸いです。もし障害者への対応が難しいようでしたら、一度、障害者対応設備を備えた吉岡町歯科にご紹介ください。
吉岡町歯科
佐世保市吉岡町1476-5 tel.0956-59-7420 (旧てらさき歯科クリニック跡)
院長 江頭 毅 *介護認定審査委員
歯科医師 須田 晶 *長崎県口腔保健センター医局員 *日本障害者歯科学会認定医